AUBERGE NANKI SHIRAHAMA · CORE IDEA · v0.1 · 2026-08-23

私たちは何を作るのか

オーベルジュの根幹にある考え方を、1枚にしました。カフェ・レストラン・器・紙物・接客まで、これから決めることの基準になります。
文中の 出所 は、その一文がどこから来たかです。要裏取り は、まだ確かめていないものです。

00なぜこの紙があるのか決める人が多く、決める瞬間は1人だから

いま、この計画には一流の作り手が何人も入っています。シェフが4人、器を選ぶ人、ブランドを作る会社、映像を作る会社。それぞれが良いものを持ち寄っています。

ただ、良いものを持ち寄っただけでは、良い一つにはなりません。持ち寄ったものが合流する先——一つの哲学が要ります。この紙はそれです。

01窓の外に建っているものまず、私たちが何の隣にいるのかを揃える
設計CGに写る、ライトアップされたホテル川久本館
これが窓の外です。レストラン棟のテラスから見た夜の川久本館(設計CGより)。塔屋と灯りが水盤の向こうに立ちます 設計CG

ホテル川久は、世界中の一流の手仕事を一つの建物に集めた建物です。公開情報・要裏取り

1991年開業、総工費400億円、設計は永田祐三。1993年に村野藤吾賞。そして「世界の数寄屋」と呼ばれています。公開情報・要裏取り

川久に集められた素材の色。足して、見せるための色です。

02「数寄屋」という呼び名この言葉の本来の意味は、実はほとんど逆を向いている

数寄屋とは、茶の湯のための座敷のことです。「数寄」は「好き」と同じ語源で、風流に心を寄せることを指します。千利休が茶の湯座敷を「数寄屋」と名付けたと伝わります。辞典

建築としての特徴は、格式を外すことにあります。長押を省く。角柱ではなく丸太や面皮の柱を使う。張付け壁ではなく土壁にする。天井は自然の素材のまま。床・棚・書院の配置に、決まった型を置かない。辞典

代表とされるのが桂離宮です。自然のままの材料を使い、装飾を排して、簡素な中に高度に洗練された簡潔美を示したもの、と説明されます。辞典

待庵
待庵(京都・大山崎/国宝)— 千利休が建てた茶室で唯一現存するもの。わずか2畳。細い丸太の柱と土壁、躙口の外に庇
文化財協会 / Public domain · Wikimedia Commons
桂離宮
桂離宮(京都)— 数寄屋の代表とされる。自然のままの材料、装飾を排した簡素
John Chang / CC BY-SA 3.0 · Wikimedia Commons
如庵
如庵(愛知/国宝)— 土壁、面皮の柱、低い軒。茶室のことを近世には「数寄屋」と呼びました
Suikotei / CC BY-SA 4.0 · Wikimedia Commons

待庵について、当時の宣教師が驚きとともに書き残したことがあります。茶室の中では、皆が平等だった。記事 格式を外すとは、上下を作らないということでもあります。

川久とは、まるで見た目が違います。数寄屋は様式の話ではなく、どう作るかの態度だからです。だから川久のような建物も、この言葉で読むことができます。

つまり数寄屋とは、足すことではなく、外すことです。

そしてもう一つ。昭和以降、吉田五十八・堀口捨己・村野藤吾らが、この様式を独自の美意識で現代に発展させました。辞典 川久が受けた賞の名は、その村野藤吾のものです。言葉が、思っていたより近いところで繋がっています。

ここで一つ、断っておきます。この紙は「数寄屋を目指す」という話ではありません。私たちがやろうとしていることを人に説明しようとしたとき、この言葉がいちばんよく当てはまった —— それだけです。
川久についても同じで、あの建物が数寄屋を目指して建てられたのかどうかは分かりません。後からそう評されている、という事実があるだけです。
それでも、この言葉を借りると話が一気に短くなります。だから借ります。物差しとしてではなく、説明の道具として。
03川久は、集めて、見せたこの言葉で読むと、川久が選んだことが見えてくる
数寄屋という言葉が指すもの
中身
川久が選んだこと
好きに寄せる数寄=好き
風流に心を寄せる。決められたものではなく、自分が良いと思うものを集める
世界中から集めた
型を外して組む配置に定型がない
多種多様な材料を、決まった型に縛られず自由に組み合わせる
様式を混ぜた
格式を外す長押を省く・土壁
格式ばった表現を排除する。見せびらかさない
見せる側を選んだ

川久は、施主が世界中から良いと思うものを集め、中国も欧州もイスラムも日本も型を外して一つに組みました。そして集めたものを、見せる側を選びました。金と瑠璃瓦とモザイクで、堂々と。

それは1991年という時代の選択であって、間違いではありません。むしろその選択があったから、あの建物は残りました。

当時、良いものは見に行かなければ見られませんでした。紫禁城の瓦も、ヴェネツィアのモザイクも、写真か、現地へ行くかしかない。だから世界中から集めて、一つの場所で見せることに、大きな意味がありました。私の解釈

04私たちは、集めて、届ける見た瞬間ではなく、触れたときに分かるように
この計画の根幹 集めるところは、川久と同じ。
変えるのは、届け方だけです。

川久は見た瞬間に分かるように作られました。私たちは、触れてはじめて分かるように作ります。

いまは、良いものの「姿」なら画面でいくらでも見られます。ただ —— 川久がそうであるように、本当に良いものは、行かなければ分かりません。あの建物も、中に立って、見上げて、包まれてはじめて分かる。写真では伝わりません。

私たちが作るのも、同じ「行かなければ分からないもの」です。違うのはスケール。建物のスケールではなく、手元のスケールで。器を持って、口にして、香って、はじめて分かる。釉の肌。紙の厚み。木の目。器の重さ。湯呑みの温度。

どちらも、来なければ分からない。違うのは分かり方のスケールです。同じ敷地に、その二つを並べて置きます。

そして「届ける」のは、器だけではありません。料理、菓子、お茶、そしてもてなし集めた一流を、手元まで届けきるということです。大竹 8/24
ここまで含めて読むと、何を選ぶかがはっきりします。
夜。水盤にキャンドルが浮かび、その先に川久本館
窓の外 — 金の灯り、塔屋、饒舌 設計CG
1F カフェ内観。淡いオーク、白い立体タイル、白漆喰
窓の内 — 白と木、装飾なし、静か 設計CG
窓の外 · ホテル川久 集めて、見せる
  • 世界中の様式を一つに
  • 金・瑠璃瓦・モザイク・煉瓦
  • 宮殿・二十世紀の宝物
窓の内 · オーベルジュ 集めて、届ける
  • 作り手の技、素材、器、そしてもてなす人の技量
  • 淡いオーク/白漆喰/白い立体タイル/石 設計CG
  • 研ぎ澄まされていて、手は最高にかかっている
見栄えを捨てる話ではありません。むしろ逆で、いまは写真が入口です。変わるのは撮り方のほうです。
川久は情報量で見せる建物です(金、瑠璃瓦、モザイク)。私たちは質感で見せます。写真に写すのは 「触れたくなるかどうか」地味にするのとは違います。
05どこに手をかけるか「一流を集める」は分かる。揃わないのは、その先です

「一流を集める」だけでは、現場は決められません。同じ予算でも、どこに手をかけるかで別のものができます。そこを揃えます。

ものそのものに手をかける。
まわりに足して見せない。

見た目を捨てる話ではありません。見た目は大事です。どこで見せるかが違うだけです。

見分け方

こうするこうしない
紙は上等なものを選ぶ普通の紙に、箔押しで足す
器は作り手を選び抜く絵柄と産地で説明する
制服は仕立てと素材で差をつけるロゴを目印にする
一品を出し、聞かれたら答える一品ごとに説明の札を付ける
花は一種、一輪季節の花を数種いける
要らないときは音楽を消すいつも何か鳴らしておく

左はものそのものに手をかけています。右はまわりに足して見せています

迷ったときの一問 五感に、伝わるか。

見て、触れて、口にして、香って、聞いて。説明を読まないと分からないものは、届いていません。

皿の上は、この限りではありません。華やかで構いません。制限するつもりはありません。大竹 8/24
ただし 洗練されていること、よく調整されていること散らかっているのと、華やかなのは違います。

絞っていいものと、いけないもの

絞っていい絞ってはいけない
見せるための装飾素材の質
格式の記号(金・紋章・仰々しさ)かけた手間
説明・能書き作り手の技量
品数清潔さ・正確さ

ここを取り違えると、絞ったつもりがただの貧しさになります。江戸ではそれを野暮と呼びました。粋の反対語です。辞典

絞っても、弱くはならない

江戸の美意識を哲学として初めて体系化した『「いき」の構造』(1930年)の著者・九鬼周造は、粋を「垢抜けして、張りのある、色っぽさ」と定義しました。辞典

「張り」があること —— 数を絞るけれど、力が抜けているわけではありません。ここが「ただ地味」との違いです。

06これは、私たちの働き方の話でもあるいまの座組が、川久の造られ方とそっくりだから

この計画には、菓子と料理の作り手、器を選ぶ人、もてなす人、ブランドを作る会社が入っています。それぞれの持ち場で一流を集めているという点で、いまの状況は川久の造られ方とそっくりです。大竹 8/23

川久には、施主の意志という一つの哲学がありました。だから寄せ集めにならず、一つの建物になりました。私たちにとってのそれが、この紙です。

一つの卓に、別々の手仕事が集まる
それぞれ違う仕事が、一つの卓の上で交わる 方向確認用のイメージ
それぞれの持ち場から、最高のものが持ち寄られています
それを、一つの哲学のもとに合流させる

持ち寄っていただくものは、それぞれの一流のままで構いません。

07やらないことやらないことが決まると、別々に判断しても外れない
08具体に落ちると、こうなる迷ったときは、ここに戻る
器のイメージ

高価に見えるものではなく、触れたときに質が分かるものを選ぶ。装飾のある器は使わない。ただし作り手は選び抜く。

畑さん → 柏崎さん・山本さん
メニューのイメージ

メニュー

品数は増やさない 社長 8/13。一品ごとにどの技法とどの素材を掛け合わせたかが1行で言える状態にする。それが「届ける」の実物になります。皿の上は華やかで構いません。制限はしません。
※ 画像は案です。見せたい世界観はシェフ陣と詰めるところで、ここで決まるものではありません。

シェフ陣(ATIROM 濱村シェフ・内山さん・出川さん・深海さん)
紙物・サインのイメージ

紙物・サイン

説明を減らす。書体は静かに。読ませて分からせるのではなく、見て伝わる量まで削る。紙は上等なものを。
※ 画像は案です。「印刷は1色」まではまだ決めていません。ここは制作と詰めます。

ブランド制作
制服・装いのイメージ

制服・装い

カフェの装いではなく、もてなす人の装い。金具もボタンも見せない、直線のシルエット。バンドカラーのシャツと同色のロングエプロン。仕立てと素材で差をつけ、ロゴも名札も要らない。着ている人が主役にならないこと。
※ 要検討。この案でもう一歩、洗練が要ります。社長は「バリスタで、海外の人が立っていたらいい」とお話しされていました要確認。その人がいちばん映える装いを考える、という設計課題です。

未定
もてなしのイメージ

もてなし(バトラー)

ここにも一流を集めます。技量は最高のものを揃え、見せびらかさない。聞かれたら語り、聞かれる前に説明しない。茶室で主役になるのは、手元と亭主の設えです。

バトラーチーム/現地チーム

※ 上の6枚は方向を確かめるためのイメージで、実際の器・料理・制服ではありません。AIで生成しています。

09まだ決めていないこと・確かめること先に固めると順番が逆になるもの
項目いまの状態誰に
川久の歴史の数字(01の全項目)公開情報から取ったもの。川久側の正しい言い方に直してから外に出す畑さん・大美さん
価格中身が決まってから。白浜の比較の起点は 4,800円 外部調査・未検証社長
器の方向(A〜E)別紙。本番は2027年3月に載せる第2波畑さん → 柏崎さん・山本さん
夜のカフェバー別口。カフェが立ってから
10月4日間の位置づけファーストゴール。完成度を測る場ではない 大竹 8/22
10ここから先 — カフェへ降ろす根幹は全体の話。現場が毎日使うのは、もっと近い言葉です

この紙はオーベルジュ全体の話です。ただ、現場が朝に読んで使うのは、もっと手前の言葉です。「ここは茶室だと思って物を置く」のような、その場で判断できる言葉

次にやるのは、いちばん近い実装であるカフェに降ろすことです。そこで出てくるのが、こういう概念です。

概念の芽 1 ネオ茶室

茶室には昔から亭主と客がいます。身分は平等でも、もてなす側ともてなされる側という2軸は、昔から変わっていません大竹 8/24
だから「平等かどうか」の話ではなく、置くもの・もてなし方の参照元として使えるのではないか、というのが芽です。

概念の芽 2 サロン川久

サロンというと、文化が集まるところ社交の場という含みが入ってきます。大竹 8/24
作り上げたい雰囲気に似ている世界観を、他から言葉ごと借りてくる —— ネオ茶室と同じやり方です。中身はこれから。

深掘りの入口として、問いを一つだけ置いておきます。
茶室は「少人数・静けさ・所作」の言葉です。サロンは「集う・語らい・文化」の言葉です。
この2つは —— 同じ店の、別の時間帯なのか。それとも、どちらかを選ぶのか。私の問いです

ここが決まると、そこで働く人の判断基準になります。器を置く手、菓子の出し方、声のかけ方。根幹は上限を決めますが、毎日の一手を決めるのはカフェ層の言葉です。

レストラン棟 海側の夕景(設計CG)
レストラン棟・海側。ここに、世界中の一流を集めて、外したものを置きます。 設計CG